●クランプのネジがひん曲がってしまった僕のBROMPTON・・・
BROMPTONのショップがある上海まで1000kmちょっと引き返せば交換できる可能性はないわけではないが、
旅行のスケジュールそのものが破綻するリスクの方がよほど高い。
と、なると、この大連市内でこのネジを修復してくれる職人を探し出す必要がある。
しかし、鍛冶屋みたいな高度な作業をしてくれる様な人物を探し出すには、
完璧に僕の言葉を理解してくれて、この街の事情に精通し、出来れば完璧な中国語が出来る人・・・
つまり、「大連在住の日本人」を探すのが、一番確実で手っ取り早い様に感じたのだった。
●そういった人物を探そうとする時、今の僕にとって最も容易な手段は・・・
いかにも日本人が経営してそうな店に入る事であろう。
今、僕の目の前に「かの庄」(とんかつ屋)と「泉」(小料理店)という2つの店が並んで出現した。
両方の店の前に行ってそれぞれ店内を眺めてみると、店内表示がどちらも完璧と言える日本語で、
いずれも日本人が経営している様に見える・・・
●フィーリングで「泉」(小料理店)を選んだ
店員さん:「いらっしゃいませ~!」
ほう、なかなか気持ちいい出迎えの声。なかなかいい感じのお店じゃないか
「どっこいしょ・・・」
まずはカウンターに着席する・・・。
ほう、オコゼの刺身
食べた事ないけど、かなり美味しいと聞く。
せっかくだから注文してみようか。あと、「たこわさ」と「冷ややっこ」と「ハイボール」
●まあ、とりあえず、一服だ
「いただきまーす」
2日目の夜、酷い目に遭ったけど、大連にカンパイ!
グビグビ。
あひィ、美味い
●ママさん:「日本のどこから来たの?」
ママさんは日本語は達者だが、現地の人のようだ。
KOU:「名古屋から来ました。判るかな?」
ママさん:「知ってるよ。東京と大阪の間の街でしょ?」
そんなやり取りをしている僕らの背後にやってきた若い大将が、ニコニコしながら いかついオコゼをかざす。
大将:「どう?活き、いいでしょ」
KOU:「スゲーな、生け簀があったんだ」
大将は笑いながら厨房に消えていった。
KOU:「店の感じからして、大将、日本人かと思ったんだけど・・・」
ママさん:「彼は成都出身よ。もともとは四川料理のコックさん」
KOU:「マジか・・・」
●数分後、見事に捌かれたお刺身が目の前に
オコゼはフグに匹敵する味と聞いたことがある。そういえば、値段もそれなりだね(138元=約2,277円)。
さっきまで泳いでいた魚だし、贅沢な感じ。
では、いただきます~
パクッ!モグモグモグモグ・・・(*v.v)。。
美味しい!
歯ごたえがとてもしっかりしていて、食感がすごくいいぞ。
淡泊でありつつ、甘めの風味とサラリとした舌ざわり、刺身の端っこにだけ醤油をつけて食べると、
口の中にふわ~っとうま味が広がっていく感じだ。
こうなると、日本酒が飲みたくなるね。
●日本酒もたくさんあるぞ
ハイボールを飲み終わったら、日本酒に切り替えよう。ゴクゴク・・・
結局、大将もママさんもお店の女の子もみんな現地人だったが、日本語がとても上手で意思疎通に困らない。
旅の話をすると、ママさんたちは興味を持ったようで、色々訊いてくる。
ママさん:「中国語出来るの?」
KOU:「ちょっとだけ・・・いや、ほとんど出来ないね」
ママさん:「マジで?それでこの国旅してるなんて、信じられない」
KOU:「大学で習ったけど、キレイさっぱり全部忘れちゃったからねえ」
でも、ちょっとだけでも習った事があれば、フツーの旅くらいは何とかなる様な気がするな。
言葉も文字も何一つ分からず、英単語ひとつ通用しなかったロシア連邦内とは全然違う。
しばらくママさんたちと雑談してると、常連と思しき男性がやってきて、カウンター席の僕の2つ隣に座った。
とても流暢な中国語を話していて中国人かと思ったが、
話の内容からして日本人の様な気がしたので声をかけてみたら、案の定、日本人だった。
僕と同年代のAさんは、中国に留学した後、この国に夢を感じて会社を興し、以来この国で過ごしているそうだ。
Aさん:「まあ、外国人が会社を立ち上げようとすると色々ハードルが高いので、この国の友人に名義を借りて
運営しているような感じなんですけどね」
興味深い話だ。
僕も、大学生の頃から中国の成長力には注目していて、いずれ日本は追い抜かれるんだろうと思っていたが、
数年前、GDPで追い越され、先端技術領域でも、そろそろ色々な分野で追い抜かれつつある。
Aさん:「街なかを見れば日本を追い越している部分もあるけれど、一方では色々古臭い部分もあったり
がさつな部分も多かったり、面白い国でしょう。先端を行ってる部分もあるけれど、日本で使い古された
色々な手段もまだまだ最新の手法として通用したりする国でもあるんですよ」
●日本酒を注文することにした
南部杜氏・・・僕の実家付近のお酒だ。
Aさん:「南部杜氏はグラスでは注文出来なかったんじゃないかな?大将?」
大将:「そうですね、ビンじゃないとダメです」
KOU:「そんなには飲めないな・・・」
大将:「その隣の『泉』ならグラスで出せますよ」
KOU:「うーん、でも、故郷の酒を飲みたい気分なんだよな」
大将:「岩手県でしょ?『泉』も岩手県のお酒」
KOU:「え?そんな酒、聞いた事ないよ」
Aさん:「岩手の蔵元が、このお店の為に造ったお酒なんですよ。
まあ、実際は他のお酒のラベルを、この店オリジナルのものに張り替えて提供してるんだと思いますけど」
●へ~、そんな事するんだ
冷で出してもらった。
美味い。僕は日本酒は甘めの方が好きなのだった・・・(*v.v)。。
ママさん:「しばらく大連にいるの?」
KOU:「いや、明日、哈爾浜(ハルピン)へ・・・」
2人:「えっ?」
KOU:「・・・・・・・・・えっ?」
Aさん:「哈爾浜・・・なんで、よりによって今の時期に?」
KOU:「?」
Aさん:「昨日は9月18日ですよ」
KOU:「・・・???」
Aさん:「中国では満州事変発生日です。
そして、哈爾濱は、いわゆる反日感情が最も高い街のひとつです」
KOU:「あっ そのあたりについては、全然無頓着でした」
Aさん:「そもそも、なぜ哈爾浜に?」
僕の祖父母が昔哈爾浜に移り住んだ事、父がその街で生まれて4年間過ごした事、その街角、
何かしらの痕跡を訪ねられればと思って自転車を持ってきた事などを伝えると、2人は興味深そうだった。
●ママさん:「これは四川料理が得意なマスターからのサービス」
色々、旅の話などで盛り上がるうちに、なんか、店の人に気に入ってもらえたらしい
大将が作ってくれた麻婆豆腐は、今まで僕が食べたどの麻婆豆腐より辛く、そして、美味しかったアツイー
ママさん:「まあ、大丈夫でしょう。年寄はともかく、私たち以下の年代の人で日本人嫌う人、いないよ」
KOU:「そりゃあ助かる。ところが、困ったことがあって・・・」
そこで、僕は自分のBROMTONがぶっ壊れた事を伝えた。
ママさん:「あ~、大丈夫!私も自転車乗るけど、私が知ってる自転車屋なら直してくれるよ」
へ~、どんな自転車乗ってるんだろ?ロードレーサーとかだったりするのかしら・・・?
KOU:「でも、そんな簡単には絶対にいかないんだわ。先に僕の自転車を扱っている店があるか探して・・・」
ママさん:「大丈夫大丈夫、私の自転車壊れた時、いつもそこで直してもらってるもん」
KOU:「いや、でも、僕の自転車の特殊な部分が壊れてるから・・・」
ママさん:「大丈夫。そこは、ものすごくたくさん自転車屋がある街だから。どこかの店が、必ず直してくれる」
KOU:「え、そんな場所があるの?」
・・・それでも直せる可能性はゼロに限りなく近いけれど、これは僕だけでは辿りつき難かった情報だ。
ママさん:「明日、私が一緒に行って、通訳してあげるよ。その修理は中国語話せないと、絶対にムリだから」
kOU:「マジで!?」
ママさん:「いいよ ランチタイム終わってからディナータイムまで、4時間あるから」
なんて親切なんだろう
はっきり言って、フツーのチャリ屋何軒回ったところで直せないと思うけど、
今、僕の立場で考えられる『具体的な対策』としては、考え得るほぼ最高の状況になったと考えていいだろう。
もし、これでBROMPTONが直らなかったとしても、何の後悔も落胆もない。
残るのは、ただ、異国の人の親切への感謝だけだ。
ってか「こちらのお店に入ってホントによかった」と心から思った。
●色々嬉しかったので、『里芋の角煮』を追加注文して、さらに一杯飲む
これも、とても美味しかった~♪
お店の人やAさんとのひと時は本当に楽しくて、実に素敵な時間になった。
翌日14時、ママさんとお店で待ち合わせする約束をして、店を出る。
お勘定は日本円で4,000円くらい。
日本のお店よりちょっとだけ安いくらいかな。大連の和食店では、比較的安いらしい。
色々な意味で満足満足
●色々な出来事がある旅だ・・・(*v.v)。。
そして、翌日14:00にママさんと落ち合い、タクシーで大連郊外の『自転車店街』へ。
おお!本当に10軒くらい自転車店が集まっているみたい
ママさんが最初連れていってくれた店の主は、
店舗前に置かれた小さなイスに座ったままでママと2~3言交わした後でBROMPTONをちらりと眺め、
にべもなく首を振った。ママが何か話しても、全く取り合おうとしない。
ママは首を振って、隣の店に行こうと言った。
隣の店の主の対応も同様で、全く取り合おうとしない。
ママ:「『部品が無い』だって」
ママはこういう状況を予想していなかったようでショックを受けているようだったが、
僕からしてみれば、完全に予想通りだった。
「まあ、ダメならダメで全然構わないので、店を回りましょう」・・・と、逆にママを励ます様な感じに。
そして、3件目の店。
店長らしき赤シャツの男性は数人がかりで電動バイクの修理に取り組んでいて、こちらに全然関心なさそう。
『ここもダメそうだな』
僕はそう思ったのだが、ママが「待って」と言って、しばらく時間をかけて色々話している。
説得してくれているようだ。
店長は首を振ったり、肩をすくめたりしていたが、どうやら『診てくれる』事になったらしいマジカー!
●そこから20分くらい待たされて、診始めてくれた
店長はクランプをしばらく眺めていた。
初めて見る車体の部品の構造をイメージしている様に見えた。
ママ:「『ぶっ壊れちゃう事になるかも知れないけど、いいか?』だって」
KOU:「全く問題ない。思いっきりやってください」
店長は色々工具を持ち出してきて、頑丈に固まったクランプの分解に取り組み始めた。
・・・色々試しているが、ガッチリはまったクランプはビクとも動かない・・・。
●10分後・・・
僕も車体を押さえつけたりして手伝っているうちに、徐々に緩みが出てきたらしい。
ようやく、ネジを外せる状態になったみたい。
その後、変な方向に湾曲したネジに、人力による圧力を加えて変形させ、修復する作業が始まった。
…湾曲したネジを、単なる手作業で、クリアランス厳しい車体に通る様に一直線に戻すのは無理だろ
●30分後
ネジは一向に直る気配がない。
困難な作業と思っていたけれど、実際の作業を見ると、想像以上に困難な作業だったという事が判る。
職人さんには申し訳ないが、直らないと思う。
とはいえ、職人さんが「ギブアップ」するまで、僕が途中で止める雰囲気でもない。
その間、店内を見させてもらう事にした。
今、中国の車道を走っている軽車両の大半は、自転車ではなく目の前に陳列されている電動車両だ。
お値段は日本円で大体30,000円~といったところらしい。お土産に買っていってもいいくらいの価格だね。
向こうの方の感覚からすると日本人にとっての100,000円少々~くらいの感覚なのではないだろうか。
●再び外に出たら、運送屋に荷下ろしを手伝わされた
なんで僕が
腰、弱いのに・・・と思っているうちに、
・・・店長が手に持ったビスが、BROMPTONのクランプの穴に『スッ』と差し込まれ、
クルクルクルっと回すと、スルスルスルッと深く差し込まれていく。
そして、いくつかのパーツを組み合わせて、少し調整すると・・・!
なおった!
少々不格好になっちまったが、キッチリ直っている!
すごい、これで、哈爾浜では再びBROMPTONで探訪出来るぞ!!!!!!
ママ:「『十分乗れる筈だけど、日本に帰ったらちゃんとしたパーツで直した方がいい』って」
勿論、そのつもりだけれど、こんなに完璧に近い状態に修復してもらえるなんて・・・
あんな作業で・・・ってか、ペンチだけで一直線に直すなんて・・・信じられない
そして、さらに信じられない事が。
KOU:「修理代、いくらなんだろ?」
ママ:「20元(約370円)だって」
KOU:「はぁん?????」
1時間以上もあんな作業してもらってるのに?
日本だったら5,000~10,000円とられて当たり前と思う。どうもこの国のコスト感覚はイマイチ掴めない・・・。
じゃあ、チップも含めて120元渡そうか・・・と思ってママに渡したら、
「そんなん必要ない」と言って20元だけ渡して100元は僕に返してきた。
店長は特段、当たり前の作業をしただけといった感じて、こちらに軽く手を振って、別の仕事に戻っていった。
KOU:「中国のお金の感覚がイマイチよくわからない。日本だったら700元くらい取られておかしくない仕事だよ。
そりゃ、日本と中国は収入に差はあるんだろうけれど、いくらなんだって・・・」
ママ:「でも、20元でいいって言ってるんだから」
まあ、それはそうだけれど・・・
KOU:「じゃあ、この100元はあなたに・・・」
ママ:「え?そんな、いらないよ」
KOU:「いや、本当に今回助かったし・・・あ、もしかして足りないかしら」
ママ:「いやいや、そんな事は・・・じゃあ、ありがとう」
KOU:「ごめんね、どうもまだこの国のお金の感覚に慣れてなくて・・・」
この辺のやりとりは、思わずこぼれた僕の本心だったのだけれど、BROMPTONが復活した圧倒的な嬉しさと
日本と中国の貨幣価値のギャップが同時に押し寄せてきていて、なんか色々、失礼というか、
嫌な奴のモノ言いみたいになってしまったのではないかと、振り返って少し後悔。
●とはいえ、BROMPTONがなおったのは、本当にうれしかった
奇跡的な確率の出来事だったように思う。
ママが乗ってみたいというので、少しサドルを下げて、どうぞと渡した。
乗り心地が気に入ったようで、しばらくの間走り回ってゴキゲンの様子だった
いいな。なんていい旅をしてるんだろう。僕はホント幸せ者だ。
そして、昨晩、『泉』に入って本当によかった!!
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